魚介類中の水銀濃度から魚の食べ方を考える
2005年11月、厚生労働省は、魚を食べることにより摂取される微量のメチル水銀*が胎児に影響を与える可能性があるとして、妊婦**を対象とした魚介類の摂取に関する「注意事項」を公表しました。
これは、その約1年半前(2003年6月)に出された「注意事項」を見直したもので、注意の必要な魚種として、前回のサメ、メカジキ、キンメダイ、一部のクジラ(7魚種)に、マグロ類(クロマグロ、メバチマグロ、ミナミマグロ)3種をはじめ8種類が追加され、全部で15種類の魚種について、妊婦が1週間に食べてもよい量と回数が目安として示されました。(表1)
摂食量(筋肉)の目安 | 魚介類 |
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1回約80gとして2ヶ月に1回 (1週間当たり10g程度) | バンドウイルカ |
1回約80gとして2週間に1回 (1週間当たり40g程度) | コビレゴンドウ |
1回約80gとして週に1回 (1週間当たり80g程度) | キンメダイ |
メカジキ | |
クロマグロ(本マグロ) | |
メバチマグロ(バチマグロ) | |
エッチュウバイガイ | |
ツチクジラ | |
マッコウクジラ | |
1回約80gとして週に2回 (1週間当たり160g程度) | キダイ |
マカジキ | |
ユメカサゴ | |
ミナミマグロ(インドマグロ) | |
ヨシキリザメ | |
イシイルカ |
また、今回の注意の対象は妊婦に限定されたもので、子供や一般の人に対しては、現段階では通常食べる魚介類による悪影響が懸念される状況ではないことから、「注意事項」の対象とはしないとされています。そして、魚介類の摂取は人の健康に有益であり、この「注意事項」が魚介類の摂食の減少につながらないように正確に理解されることを期待したいとされています。
なお、今回妊婦が注意すべき魚介類として名前があがった15種の中にはクジラ(3種)、イルカ(2種)、サメ(1種)など、普段一般的な日本人の口にはあまり入ってこないようなものも多く含まれています。
- ■厚生労働省の関連ページ
- 「妊婦への魚介類の摂取と水銀に関する注意事項の見直しについて」
- 「注意事項」
- 「Q&A」
- * 胎児の健康への影響が懸念されているのは「メチル水銀」、消費者等にわかりやすく伝えるため、特段の必要がない場合には「水銀」と記載している。
- **妊娠している方または妊娠している可能性のある方
今回の見直しが行われた理由は...
- 1) 2003年、国際機関(JECFA)において、発育途上の胎児を十分に保護するためメチル水銀の毒性の再評価が実施され、どの程度までのメチル水銀摂取が安全であるかを定めた摂取レベル(耐容量)がメチル水銀1.6μg/kg体重/週(水銀として)とされたこと(一般の人は3.3μg/kg体重/週)
- 2) 2004年、米国、英国、オーストラリア等において妊婦等に対する注意事項が出されたこと
- 3) 2005年、我が国でも、メチル水銀の悪影響を最も受けやすい対象(ハイリスクグループ)は胎児であり、妊婦の耐容量は2.0μg/kg体重/週(水銀として)とされ、継続的に実施された魚介類の水銀濃度に関する調査がまとめられたこと等
注意事項はどのようにして作られたか
最近10年間の日本人の汚染物摂取量調査結果より、水銀一日摂取量の平均値が8.42μg/人/日(58.9μg/週)であり、このうち魚介類から6.72μg(47.0μg/週)、その他の食品から1.70μg(11.9μg/週)でした。
3)から、妊婦の耐容量は2.0μg/kg体重/週ですので、妊婦の平均体重を55.5kgとすると一週間当たりの耐容量は(2.0x55.5=111で)111μg/週となります。すなわち、妊婦を含めた日本人は平均的に現在妊婦耐容量の半分を少し上回る量の水銀を摂取していることになります。
魚介類からの水銀摂取(47.0μg/週)のうち一般魚介類からの割合をどれくらいに見積もるかについては、我が国の15〜49歳の女性における水銀摂取量の調査で、一般魚介類からの水銀摂取量はほぼ半量(47.0÷2=23.5μg/週)であったとされています。
以上の数値から、厚生労働省では妊婦が注意すべき魚介類の摂取可能量(回数)を算出する目安の試算基礎となる1週間当たりの水銀の耐容量摂取を以下のように仮定しています。
注意すべき魚介類
注意対象の魚種は、魚介類の水銀の暫定規制値である総水銀0.4ppm、メチル水銀0.3ppmを超えるものを選び、さらに、摂食量を1回80gとして、週に3回食べたときに水銀摂取量が75.6μg/週を超えるもの(すなわち、上の仮定で妊婦の耐容量(111μg/週)を超えてしまうもの)とされています。1週間の水銀摂取量を胎児にとって安全な量に抑えるために、それらの摂食回数を1〜2回(80〜160g)までとしています(表2−1)。詳しい食べ方は「Q&A」平成17年11月2日(厚生労働省ウェブサイト)をご覧ください。
一般の魚介類
一般の魚についてはあまり述べられていないので、ここで、仮定にしたがい、一般の魚介類の食べ方について水銀濃度から考えてみます。注意すべき魚介類を週に1〜2回食べた場合を想定しています。
魚種は、今回の「注意事項の見直しについて」の別添5資料に示されている“魚介類に含まれる水銀の調査結果(国内385種類)”から、比較的食べる回数の多いものを選びました。
ただし、計算はメチル水銀のデータがそろっていなかったので、総水銀の値で行ないました。一般的に、魚のメチル水銀含有量は総水銀の75〜100%とされています。したがって、魚からの摂取量をやや高めに見積もることになります。
一般の魚介類からの水銀摂取量23.5μg/週を基に、摂食量を1回80gとして、食べる回数を計算してみました(表2−2)。比較的水銀濃度の高いマグロ類、カツオ、ブリなどの魚種(0.15ppm以上)では週に1〜2回ですが、ほとんどの貝類やエビ、イカ、タコなど水産動物では回数を考えなくてよさそうです。
「注意事項の見直し」平成17年11月2日別添5より抜粋し作成
妊婦さんの魚の食べ方は?
我が国の15〜49歳の女性の平均一日魚摂食量が73.6gであることから、毎日1回魚を食べるとすれば、1週間当たりでは500g程度と考えられます。したがって、あくまでも目安ですが、注意対象魚を1〜2回食べたら、一般の魚介類を3〜5回、魚食のメリットを生かすようにバランスよく、大きな魚や小さな魚、赤身の魚や白身の魚、貝類や水産動物(エビ、イカ、タコ)等、魚種が偏よらないように組み合わせて、適量を食べるようにすればよいと考えられます。
最後に
妊婦さんが「注意事項」を参考にして、魚を選んで食べるためには、市販品の表示が正確であることが不可欠です。また、今回データ不足で検討からはずされた魚介類についても調査が継続され、今後とも「注意事項」を見直していくことが必要と考えられました。
関連ページ:魚介類中の水銀含有量について